嘘と愛
「…ごめんね。僕が護ってあげれなかったから…」
抱きしめられている腕の中で、幸喜の鼓動が伝わってくる…。
本当に後悔している…
そんな幸喜の思いが伝わってきた。
「桜は、僕の心から愛した人にそっくりだよ。初めて、会社に訪ねてきた時にびっくりしたんだ。…その日から、ずっと探している心から愛する人が恋しくなった。それと同時に、桜の事も愛しくてたまらなくなって…もう一度会いたい、会ってちゃんと謝りたいって。その想いが強くなってた。…今日も、なんとなく桜がどこかで泣いているんじゃないかと思えて。駅前を歩いていたんだ…」
ずっと…捨てられたと思っていた…
探してなんかいないって思っていた…
でも確かに…この腕のぬくもりを感じた事がある…。
想いが溢れてきて。
零は泣き出してしまった。
「…ごめんなさい。…私が産まれてたから…いけなかったんでしょう? 」
「何言っているの? どうしてそうなるんだ? 桜が産まれてきたのは、僕と愛する人の証だよ。なんでそれがいけない事になるんだ? 」
「私が産まれて来なければ、苦しくないでしょう? こんなに…」
「そんな事言わないでくれ。…嬉しくてたまらないのに…」
抱きしめている幸喜の腕に、ギュッと力が入った…。
伝わって来る幸喜の鼓動…。
その鼓動には遠い昔にどこか覚えがある。
何となくの感覚だが、体が覚えているのが判る…。
「泣きたいだけ泣いていいよ。…もう我慢しなくていい…」
突き放さなくてはならない。
そう思う零だったが、幸喜の腕の中はとても心地よくて安心させられる…。
刑事になって、幸喜のもとにディアナの件で行ったときは、自分を捨てた人…この人は自分の人生を狂わせた人だと思っていた。
でもあの時…
幸喜は優しく零の肩に鞄をかけてくれた。
思い返せば、話している時にも優しい目で見つめてくれていた…。
本当は…ずっと探して欲しいと思っていた…。
育ててくれた隆司と喜代華に不満はなかった。
でもどうして、赤ちゃんの時に捨てられたのか…なんで、自分には左手がないのか…。
本当は不自由で辛いのに、隆司と喜代華にはそれを言ってはいけないと思って言えないままだった…。
「…ごめんなさい…」
小さな声で零が謝った。