嘘と愛
「どうして謝るの? 何も悪くないじゃないか」
「…ずっと、勘違いしていたから。…いらないから、捨てたんだって思っていたから。…」
「そう思われても仕方ないって、思っていたよ。優しいんだね、桜のその優しさは、お母さんにそっくりだよ」
「…本当のお母さん? 」
「ああ。会社に来てくれた時、びっくりしたよ。昔のお母さんと同じ声をしていて、仕草も似ていたから」
ゆっくりと…零は幸喜を見上げた。
目と目が合うと、幸喜はそっと微笑んでくれた。
「よく見ていると、顔は僕とそっくりなんだね。嬉しいなぁ」
「…私でいいんですか? 」
「何が? 」
「私が、本当の子供でいいんですか? 」
「何言っているの? そんなの、いいに決まっているじゃないか」
「…こんな私なのに…」
そっと、幸喜は零の頬を両手で包んだ。
「もう、何も言わなくていい。…桜がここに居てくれるだけで、それだけで何も言うことはない。生きていてくれれば、それだけでいいんだよ。桜は、完璧だ」
頬を包んでくれる幸喜の手が、とても暖かく、零の胸はいっぱいになった。
生きていて…良かった…。
そう心から思えた…。
「桜。今夜は、一緒に寝てもいいかな? 」
「あ…はい…」
ちょっと赤くなって零は返事をした。
大人になってお父さんと一緒に寝るなんて考えたことがなかった。
でも…。
1つのベッドで並んで幸喜と寝ていると、とても安心する事に気づいた。
異性への意識ではなく護ってくれる暖かいぬくもりをただ感じるだけ。
遠い昔に確かに覚えがあるような気がする。
この鼓動は確かに感じたことがある。
幸喜の胸にそっと触れて零はそう思った。
ぐっすり眠った零は、無意識なまま幸喜にギュッとだきついてきた。
まるで小さな子が親に甘えるように、ぎゅっとしがみついてくる零が可愛くて。
幸喜はそっと抱きしめていた。
零を抱きしめながら、幸喜は遠い昔を思い出していた。