嘘と愛
 それは22年前。

 幸喜が心から愛した人…イリュージュの事。

 同僚のディアナとなんとなく交際を始めた幸喜だったが、ある日、ディアナの妹とは知らずにイリュージュと出会ってしまった。

 仕事の帰りに急な雨が降ってきて、幸喜は駅前のカフェで雨宿りをしていた。
 だが、なかなか止まない雨に困っていた。

 店を出てタクシー乗り場まで走って行こうか迷っていた幸喜。
 そんな幸喜にビニール傘を差し出してくれた人が居た。

「これ、使って下さい」

 優しく綺麗な声で言われて、幸喜は何となく声の方を見た。
 
 するとそこには、今まで出会ったことがない、まるで女神のような優しい目をしている綺麗な女性がいた。
 サラサラとした綺麗な金色の髪が肩まで届き、シャープな輪郭の顔にキリリッとした切れ長の目にプルっとした魅力的な唇…。
 まるで絵の中から飛び出してきた女神のような、暖かい雰囲気の女性に幸喜は息を呑んだ。
 かっちりとした黒系のスーツ姿は生真面目に見えるが、生真面目の中にとても優しエネルギーを感じホッとさせられる。
 こんな女性がこの世の中にいたのかと、驚いている幸喜に女性は優しく微笑みかけてくれた。

「私、折りたたみの傘を持っていますので。置き傘だったんですが、2つあるので気にしないで使って下さい。雨、当分止みそうにありませんから」
「有難う…」
 女性に見とれながら、幸喜は傘を受け取った。

 幸喜に傘を渡すと、女性は会釈をしてそのまま去って行った。

 ちょっと背の高めで、スタイルも良い女性。
 去ってゆく女性を見ていると、また、幸喜の胸がキュンとなった…。


 その日はそのまま別れたが。
 数日後、またその女性と幸喜は再会した。

 その頃は副社長だった幸喜は、出張も頼まれて外出することもあった。

 出張から帰ってきた日。
 駅から自社ビルまで幸喜が歩いていると、傘をくれた女性が歩いて来た。

 嬉しくて、幸喜は女性に駆け寄り声をかけた。

「あの…」

 幸喜が声をかけると、女性は立ち止まった。
 
 目と目が合うと、以前と変わらない優しい目で見つめてくれる女性に、幸喜の胸がまたキュンとなった。

「この前は傘有難う。とっても助かったよ」
「いえ、置き傘だったので気にしないで下さい」

「ねぇ、傘のお礼をさせてくれないかな? 」
「お礼なんて、とんでもないです」

「いや、だって。すごく嬉しかったから」

 そう言って微笑んでくれる幸喜の目がとても優しく、女性は胸がキュンとなった。
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