嘘と愛

 それから更に1週間後。

 幸喜が取引先との話を終え、シティーホテルのカフェを出た時だった。

 偶然にもイリュージュがいた。

 今日のイリュージュは綺麗に髪をアップして、清楚なブルー系の膝丈ワンピースに白いジャケットを羽織っていた。

 明るめの服がとても似合っていて、前にもまして綺麗なイリュージュに幸喜は見惚れてしまった。

 誰かと話していたようで、会釈をしてそのまま歩いてきたイリュージュ。

 幸喜は思いより先に体が動いて、イリュージュに駆け寄って行った。

 幸喜に気づいて足を止めたイリュージュ。

「久しぶりだね」

 優しい笑みで笑いかけてくれる幸喜を見ると、イリュージュの胸がまたキュンとなった。

 歩み寄って来る幸喜に胸がドキドキして、イリュージュはどうしたらいいのか分からなくなり俯いた。

 傍に来た幸喜はイリュージュの手をギュッと握った。

「約束をしていなくても、こうして出会えるって事は。僕と君はきっと、運命の糸で結ばれているんだよ」

 イリュージュはちょっと恐る恐る幸喜を見上げた。

 目と目が合うと、幸喜は愛しそうにイリュージュを見つめた…。

「好きだよ…君の事が」
「えっ…? 」

 驚いて頬を赤くしたイリュージュが可愛くて、幸喜はギュッと抱きしめた。

「初めてなんだ、こんなに心から人を好きなったのは」
「…私…そんな…」

「君に嫌われても、この気持ちが変わる事はないよ」

 何かを言いかけて、イリュージュは言葉を呑んでしまった。

「僕と、付き合ってくれる? 」
 
 困ってしまい、イリュージュは俯いたまま何も答えなかった。

「返事はすぐにじゃなくていいよ。連絡待っているから、いつでも電話して」

 そっと身体を離して、幸喜はイリュージュを見つめた。

 突然告白され、イリュージュは困ったまま何も答えなかった。
 幸喜は戸惑っているだけだと思い、イリュージュが返事を出してくれるまで待っていようと決めた。

 しかし。
 イリュージュが答えなかったのは理由があった。

 それは…。




 週末になり、幸喜は仕事が早く終わり定時で帰宅する途中だった。

「幸喜さん」

 エントラスで待っていたディアナがいた。

 派手なメイクに茶色い胸の大きく開いたブラウスに、ピッチリした短めの黒いタイトスカートに黒いハイヒール姿のディアナは、どこから見ても派手に着飾ったちょっと軽い感じの女性しか見えない。

 歩み寄ってきたディアナに、幸喜はちょっと怪訝そうな目をしていた。


「幸喜さん、今日は定時で帰れるのね。ねぇ、夕ご飯食べて行きましょう」

 一方的に腕を組んでくるディアナ。

 流されるように、幸喜はディアナに連れて行かれた。




 ビルを出て歩いて来る幸喜とディアナ。


 駅近くに来ると、時計台の近くに仕事帰りのイリュージュがいた。
 今日は、シックなスーツに身を包んでいるイリュージュは誰かを待っているようだ。

「あら? イリュージュじゃない」

 イリュージュを見かけたディアナは、歩み寄って行った。

「イリュージュ、どうしたの? こんなところで」

 どこかわざとらしく声を変えたイリュージュ。

「お姉ちゃん。…どうしたのって、お姉ちゃんが呼び出したんじゃない」
「そうだったわね。あ、ちょうど良かった。紹介するわ」

 ギュッと幸喜の腕にしがみついて、ディアナはちょっと挑戦的な笑みを浮かべた。

「前から話していたけど。私の彼よ、宗田幸喜さん。宗田ホールディングの副社長なのよ」

 紹介され、イリュージュはちょっと困った目をした。

「私達、結婚の約束をしているの」

 はぁ? 何を言っているのだ? 
 幸喜は驚いた目をしてディアナを見た。

「よかった、イリュージュにも紹介出来て」
「…そうなんだ。…とても、素敵な人で良かったね。お姉ちゃん…」
 
 はにかんだ笑顔でイリュージュは言った。

 違う! そんな約束していない!
 そう言いたかった幸喜だが。

「幸喜さん、妹のイリュージュ」

 幸喜の言葉を遮るかのように、ディアナがイルージュを紹介してきた。

「私とは双子の姉妹なの」

 双子? 
 似ていないなぁ…。

 幸喜はどこか違和感を感じた。

「まぁ、私とイリュージュは双子でも血が繋がっていないの。イリュージュは、父が再婚した相手の連れ子で。たまたま私と同じ年で、誕生日も1日しか違わないから双子で通しているの」

 なんだ、そうなのか。
 幸喜は内心ほっとした。
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