嘘と愛
「じゃあ、行きましょう幸喜さん。イリュージュ、また改めて幸喜さんを家に連れて行くから。その時は、貴女の手料理を作ってご馳走してね」
「はい…」
そっと視線を反らして、イリュージュはそのまま去って行った。
幸喜はなんとなく、イリュージュが傷ついているのを感じ取った。
ディアナのどことなくワザとらしい行動。
もしかして、わざとなのか?
幸喜は何となく嫌な感じを受けていた。
藤崎と苗字を聞いて、どこか引っかかっていたが。
ディアナの妹だったとは…
それだから、連絡してこなかったのか?
幸喜はイリュージュに後ろ髪を引かれる想いのまま、ディアナに引っ張られ歩いていた。
ディアナと食事をしていても、幸喜はイリュージュの事が頭から離れなかった。
傷ついたような目をして、そっと視線を反らして去って行ったイリュージュ。
誤解を解きたい。
このままでは嫌だ。
そう思っていた幸喜だったが、それからしばらくイリュージュと会う事はなかった。
幸喜の思いは膨らむばかりで、毎日携帯に連絡がないかどうかを見ていた。
そんな時だった。
秋も深まり、だいぶん寒くなってきた11月に入った頃。
酷く雨が降り出した時だった。
仕事が終わり、遅くなった幸喜が傘をさして歩いていると。
傘を差さずにずぶ濡れになって歩いているイリュージュを見かけた。
何か思いつめているように歩いているイリュージュ。
そんなイリュージュを見つけて、幸喜は駆け寄って行った。
雨に濡れてしまったイリュージュに、そっと傘をさしかけた幸喜。
驚いて立ち止まりハッと顔を上げたイリュージュに、幸喜はそっと微笑んだ。
「どうしたの? そんなに濡れて」
「…いえ…」
答えるイリュージュは悲しそうな目をしていて、幸喜の胸がズキンと痛んだ。
「ちょっと、話さない? せっかく会えたんだ、ちゃんと話したいんだ」
「お話しすることは…何もありません…」
ギュッと唇を噛んで黙ってしまったイリュージュ…。