嘘と愛
「この前の事だけど。あれは全くの誤解だ。僕は、ディアナと結婚の約束なんてしていない。交際していても曖昧で、ずっと断ろうとしていたんだ。だから、何も気にすることはないんだよ」
「でも…姉の交際相手に、私は近づくことはできません…」

「君は僕とディアナの事を知っていたんだね? だから、連絡してこなかったんだね? 」
「できるわけないじゃないですか、そんな事…」

「イリュージュ…」

 苦しそうに俯ているイリュージュを、幸喜はそっと抱きしめた。

「苦しめてしまってゴメン。でも、君を本気で好きになってしまったのは僕の方だから」
「私なんかより、姉の方が素晴らしいですから…」

「そうじゃない。君を好きなのは理屈じゃない、僕のハートが喜んでいるからだよ。君じゃなくては駄目なんだ」

 抱きしめているイリュージュが震えているのを感じた幸喜は、そっと包み込むように抱きしめた。

「ここは寒いから、場所を変えよう」

 幸喜に包み込まれながら、イリュージュはそのままついて行った…。



 幸喜とイリュージュはシティーホテルのスイートルームにやって来た。

 シティーホテルは宗田ホールディングのグループ会社で、いつでもスイートルームは使えるようになっている。

 綺麗なシャンデリアに、見惚れるくらいの夜景が見える最上階にあるスイートルームは夢のような世界が広がっている。

 雨が降っている今夜でも、綺麗に輝いている夜景は最高だ。



 座り心地のよいソファーに、ガラスのテーブル。
 ウェルカムドリンクも用意してあり、綺麗なバラの花が飾ってある。

 奥には寝室が別にあり、広々としたフカフカのダブルベットが置いてある。

 お城のような部屋に、イリュージュはちょっと見惚れていた。


「とりあえず、お風呂に入ってきて。温まらないと、風邪ひいちゃうからね」

 そう言われても、イリュージュは複雑そな顔をしている。

「心配する事はない。ディアナは海外旅行中だろう? 2週間ほど戻って来ないじゃないか」

 迷っていたイリュージュだが、このままでは冷えてしまいほんとに風邪を引きそうだと感じ素直にお風呂に入る事にした。
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