嘘と愛
 浴室もかなり広くて、バスタブもおしゃれな大理石で、照明も明るい。
 石鹸もシャンプーもリンスも、とてもいい香り。
 ゆっくりと湯船に浸かっていると、何もかも忘れそうになるくらいだった。



 しばらくして。
 お風呂から出て来たイリュージュは、ちょっと長めのバスローブを着ていた。

 入れ替わりに、幸喜もお風呂に向かった。


 外の雨は強くなって止む気配がない。

 姉の交際相手の人と…こんな事して…。
 イリュージュの中に罪悪感が込みあがってきた。

 だが…
 幸喜と初めて出会った時、イリュージュはディアナと幸喜が交際していることは知らなかった。


 2度目に会った時、幸喜から連絡先を渡されて宗田ホールディングの副社長であることを知った。

 その時、もしかして? と思ったイリュージュ。
 家に帰ると、ディアナが自慢そうに

「私、将来は宗田ホールディングの社長夫人になるわ」

 と、イリュージュに話してきた。

「副社長の宗田幸喜さんと交際しててね、結婚前提で交際してほしいって言われているの」

 どこか嫌味っぽいディアナ。
 その話を聞いて、イリュージュは幸喜にこれ以上関わってはいけないと思い連絡をしなかった。


 だが三回目に会ってしまった時。

「好きだよ、君の事が」

 と、幸喜に言われてディアナと結婚前提の人が、どうしてそんなことを言うのかと疑問を感じた。

 しかし、幸喜に手を握られて。
 その手を通して幸喜の誠実な気持ちが伝わってきたイリュージュ。

 ディアナの結婚相手だから、幸喜にはもう近づいていはいけないと思っていたイリュージュだが。

 日に日に思いが募ってしまい…どうすることもできなくて、今日は雨に打たれて頭を冷やしていたのだ。

 そんな時に、まさか幸喜に会ってしまうとは…。


(僕達は運命の糸で結ばれているんだね)

 前に幸喜はそう言った。

 もしかしたら、本当にそうかもしれない…

 イリュージュはそう思った。


 今夜だけ…今夜だけなら、その運命の糸に素直になってもいい…
 一度でいいから…本当に心から求める物を手にしてみたい。
 イリュージュはそう思った。
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