嘘と愛
栞をもう一度呼び出し、写真を見せて確認したところ。
栞は渋々偽証を認めた。
そのしてその影に、椿の姿がある事も証言した。
椿は現在、会社の研修で海外に行っていることになっている。
しかし… …。
空港近くにある暗い感じの喫茶店風のバー。
カウンターのママはちょっと暗い感じの怪しい雰囲気で、静かにお酒を作っている。
カウンターから離れた場所にある、テーブル席に派手な赤いワンピースを着た椿が座っている。
そしてその向かい側には…
パープルのスリップドレスを着ているディアナがいた。
椿はディアナに封筒を渡した。
「これが全部。そして、これ…」
椿がディアナに渡したのは、パスポートだった。
ディアナは黙ってパスポートを受け取った。
パスポートを開くと、ディアナの写真とその下には別の名前が書いてある。
白田雪(しろた・ゆき)…。
どうやら偽造パスポートのようだ。
「これで逃げられる? お母さん」
ディアナはフッと笑った。
「そうね。後は、あんたがあの海外の口座に送金してくれれば当面遊んで暮らせるわね。美奈の事件も迷宮入りになるだろうし。もし、私の失踪届けを出してくれたなら7年経過したらし死亡扱いになるものね」
「そうね。…ねぇ、お父さんには何も想いはないの? 」
「あるわけないでしょう? 初めから、イリュージュを苦しめるためだけにあの人とは結婚したんだもの。子供ができれば、簡単に離婚なんてできないでしょう? ちょうどいい具合に、イリュージュが妊娠してくれるなんて。好都合だったわ」
「そうなんだ。だから、私を誘拐してきたの? 」
ディアナは椿を見てニヤッと笑った。
「そうよ。だって、イリュージュが産んだ子供なんて育てていたら。幸喜さんは、きっと気づくわ。あの人、やたらと勘が鋭い人だもの。それに、産まれた赤ちゃんの瞳の色。イリュージュと同じ緑色だったもの。生まれたての赤ちゃんなんて、みーんな同じ顔しているでしょ? だからすっかり騙されていたわね、みんな」
「そうなんだ。…それで、好き勝手やって海外ばかりに行くの? 他の男の人とも、浮気しているんでしょう? 」
「当り前じゃない。あの人、一度も私を抱こうとしない。私だって女よ、誰かに抱かれたいって思って当り前じゃない。だからお金で割り切れる人に、抱いてもらうの。私には、妊娠のリスクは全くないしね」
タバコを取り出して、ディアナは吸い始めた。
「子供が欲しくても産めない人もいる。…イリュージュは、ずっと私が欲しい物を手にしていた。…だから、私は奪って生きたの。イリュージュが大切にしている物を、ぜーんぶね」
フーッとタバコを吸って、ディアナはまたニヤッと笑った。