嘘と愛
「あんたも欲しい物は、どんな手段を使っても手に入れることね。人に譲るなんて、そんな事したら勿体ないわ。一度きりの人生だもの。好きに生きればいいじゃない。犯罪なんて、ばれなきゃいいのよ。私みたいに、完全犯罪をやれば見つからないわ。やばかったら、こうして別人になって逃げる手段もあるわ。お金さえあればね」
パスポートを見て、ディアナは含み笑いを浮かべた。
「イリュージュが釈放された事を知って、ずっと脅してお金を要求していたのだけど。急にお金を渡さなくなったのよね。私は唯一の身内だから、イリュージュの事はいち早く情報が入るのだけど。その事は、幸喜さんには一切伝えなかったわ。イリュージュは、母親から受け継いでいる資産を何千億と持っているから。働かなくても、お金には困らないの」
フーッとタバコを吸って、少しだけ遠い目をしたディアナ…。
「お金を渡さないなら、誘拐犯で殺人犯だったことを世間にばらすって脅していたのに。それでも応じなくなったの。どうしてかしらね? 」
あんた何か知っている? と、目で椿に威圧をかけたディアナ。
椿は全く分からない顔をした。
「…私には判らない。けど、この世の中に完全犯罪って本当にあるのかな? 」
「はぁ? 」
「嘘はいつか明るみになるって、お父さんは言っていたの。だから私は怖かった。いつか、本当の子供じゃないって分かってしまって追い出されるんじゃないかって。中学生の時、お兄ちゃんしか輸血できなくて。お兄ちゃんは、養子なのにどうして? って思って。お母さんに、事実を聞かされて。ショックよりも納得したけど。…もしお父さんが、お母さんが言うように。勘が鋭い人なら、私が実の子供じゃない事はもう知っているんじゃないかって思うの」
椿の言葉に、ディアナの目が怯んだ。
しかし、それを隠すためにまたタバコを吸ってごまかした。
「別にいいんじゃない? 知ってても娘として、家に置いているんだから。それを利用して、好き勝手やればいいじゃない。どうせお金持ちなんだから、好きなだけお金使ってやれば? それが腹いせでもあるものよ」
居直ってディアナが言った。
ディアナの言う通りかもしれない。
椿はディアナから、本当の子供ではないと聞かされたのは怪我をした中学生の時だった。
海外から戻ったディアナに、椿は輸血がどうしてできなかったのか尋ねた。
するとディアナは悪びれることもなく、見下した目を椿に向けた。