嘘と愛
バーを出て、椿は空港から少し離れたところにあるビジネスホテルに向かった。
今、会社を休んでいる椿はビジネスホテルに泊まっていた。
部屋に戻って来てシャワーを済ませると、椿は携帯を開いた。
電話帳を開いて、大雅の番号を表示して、何度も閉じては開いてを繰り返した。
「お兄ちゃん…。お兄ちゃんじゃないから…好きになってしまったのに…」
携帯電話を握りしめて、椿は呟いた。
どうやら椿は大雅に恋をしたようだ。
それ故に、零が大雅と一緒にいるのを見た時、嫉妬心が湧いてきた。
それと同時に、零が幸喜に似ている事から、よけいに危機感を感じた椿。
「あの人…邪魔…」
怖い目をして一点を見つめた椿は、ニヤッと笑った。
そしてその夜。
零は大雅の容疑の晴れたことから、家に戻ろうとしていたが、幸喜がもう一日いて欲しいと頼み込んでいた。
夏樹と空も、もう少し一緒にいたいと願ってい、帰るのは明日にしてほしいと頼みこんできた。
零は大雅が心配なのと、まだどこか素直になりきれていない自分がいて、帰りますと言いとおしていた。
そんな時だった。
ピンポーン。
チャイムが鳴り、空が玄関に向かった。
空が玄関を開けると、そこにはちょっと照れ臭そうな顔をした大雅がいた。
仕事帰りに直接来たようで、大雅はまだスーツ姿のままだった。
「あら、大雅。どうしたの? 」
空が尋ねると、ちょっと恥ずかしそうに視線を落とした大雅。
「あの…迎えに来たんです…」
「え? 」
「その…」
なんだか恥ずかしそうに、俯いてしまう大雅を見て空はクスッと笑った。
「そう。貴女も恋する年頃だものね。上がって、せっかく来てくれたのだから」
「いや、俺はいいので…外で、待っています」
「どうして? 幸喜と喧嘩でもしたの? 」
「…そうじゃないけど…。そうなんだけど…」
大雅がモジモジしていると…。
「大雅、どうしたんだ? 」
中から幸喜が出て来た。
幸喜を見ると、大雅はムスッとして顔を背けた。