嘘と愛
「大きくなるにつれて、お前の口数も減ってきて。何も話してくれなくなっても、気持ちは伝わっていた。そろそろ、ちゃんとお前にも話そうと思っていたのだが。その前に、出て行かれてしまって話すきっかけを失ってしまったんだ。ごめんな、せっかく養子に来てくれたのに。辛い思いばかりさせて」
視線を反らして大雅は黙っていた。
辛いというか…そうじゃないというか…自分でもよく判らないのが本音だと大雅は思った。
「お前の言う通り、椿は僕の子供じゃない。勿論、ディアナの子供でもない。あの怪我の時、調べてもらってハッキリしりしたことだ。だが、僕は椿を追い出したり手放す気はなかった。あの誘拐事件の時、椿は何ら形でどこからか連れて来られた。そして、僕の元に来てくれた。だから、椿がここに来たのは椿のせいじゃない。椿が望むなら、本当の両親を探してもいいと思うし、血が繋がらなくても椿は僕の子供だと思っている。勿論、お前の事も養子だって僕の子供だとずっと思っているよ。偽物家族って、そう言われても否定はできないけどね。僕は、ディアナとずっと籍を入れないで22年間過ごしてきたから」
こいつの言う事なんて…。
大雅はそう思った。
だが、幸喜の言葉はとても優しい…
どこにも嘘はない。
大雅が反抗しても、ずっと本気で怒ってくれていた幸喜。
中学の時は、幸喜と取っ組み合いの喧嘩もした事がある。
ずっと違和感を感じていた大雅は、素直になれず吐き出す気持ちがどこにもない事から、中学生になると夜遊びをして悪い連中とつるむようになった。
黙って帰ってこない日も多く、陰でタバコを吸ったり、悪い連中とバイクに乗って暴走していた事もある。
何度か学校にも呼び出された事もあったが、幸喜は問い詰める事もなく、叱る事もしないで「どうしてそんな事をしたんだ? 」とだけ聞いて後は何も言わなかった。
理由なんて大雅にも分からない事で、何を言っていいのか分からないまま無言の日々が続いていた。
そんな事が続いて半年過ぎるときだった。
夜遊びをして朝になり帰って来た大雅。
いつものように幸喜は何も言わないと思っていたが、その日は大雅が帰るまでずっと起きていた。
帰ってくると玄関で待ち構えていた幸喜に、大雅は正直驚いたがそのまま無視をして家の中に入って行った。
黙って通り過ぎようとした大雅の腕を掴んで、幸喜は
「どこに行っていたんだ? 」
と、いつもの穏やかな口調で聞いてきた。
大雅は「うるせぇ! 」と言葉には出さなかったが、幸喜の手を振り払いそのまま部屋に戻ろうとしたが、ガシっと強い力で引き止められた。
なんだ! と幸喜を睨みつけた大雅。
そんな大雅をじっと冷静な目で見ていた幸喜。