嘘と愛
「嬉しいなぁ。大雅が愛してくれている人は、父さんにとっても、大切な人だから。でも、黙って家に連れてきてしまって、ごめんな」
「…別にいいよ。…ここに居るって、なんとなく分かったから。安心した」
「そっか。それで、迎えに来てくれたんだね」
「だって、もう容疑も晴れたし」
「ああ、そうだな。じゃあ、せっかくだからお前も1日くらいここに居ればいいじゃないか」
「そんな事…」
「ここはお前の家だ。いつだって、帰ってきて構わない。勿論、零ちゃんも一緒に来てくれればいいぞ」
零の名前を言われると、大雅はまた赤くなった。
そんな大雅を見ると、幸喜は何となく可愛く思えた。
「今日は仕事を任せて、悪かったな。大変だっただろう? 」
「今日は、それほど忙しくなかったから」
「そうか。じゃあ、今夜はゆっくり休め。おばあちゃんも、おじいちゃんも帰ってくれている。久しぶりに話もしたいだろうしな」
「うん…」
まだどこか素直じゃない大雅だが、来た時よりは素直になったようだ。
食卓では夕食を用意が用意されていた。
引き留められている零は、とりあえず夕食を食べるために椅子に座っていた。
今日はすき焼きを作った空。
なんとなく、量を多めに買ってきていた為、沢山作っていた。
「幸喜、どうかしたのか? 」
夏樹が心配そうに空に尋ねた。
「大雅が来て、何か話しているみたいね。親子喧嘩でもしたのかしら? 」
「親子喧嘩かぁ。…そう言えば思い出すね、幸喜と大雅が取っ組み合いの喧嘩した時の事」
「ああ、そんな事もあったわね」
取っ組み合い?
零はちょっとびっくりした目で、夏樹と空を見た。
「ん? どうしたの? 零ちゃん。そんなに驚いて」
「あ…いえ…」
「もしかして、幸喜の意外な面みちゃったのかな? 」
夏樹は零の顔を覗き込んだ。
「い、いえ…。あの…お父さんでも、そんな喧嘩するんですか? 」
「ああ、幸喜はいつも穏やかだけど。怒った時は直情型で、相手が誰だろうと向かっていくからね。子供の頃は良く、弱い者いじめしている子に立ち向かっていたんだよ。見かけによらず、あれでも空手有段者だからね」
「そうなんですね…」
見かけと違う幸喜の意外な姿。
でも、なんとなく分かるような気がした。
日ごろの余裕は、いざという時に力があるからなのかもしれない。