嘘と愛
「22年前。ある産婦人科で、双子の赤ちゃんが誘拐された。1人は無事にかえってきたが、1人は殺害された。そして、その誘拐事件の犯人は双子の赤ちゃんの母親の、双子の妹だった。妹が姉を妬んで、誘拐事件を起こし1人の赤ちゃんを殺害した。そんな結末で、終わった誘拐事件が22年前に起こったそうです。その誘拐事件が起こった産婦人科は、殺害された助産師が22年前に勤務していた産婦人科です。これは、偶然でしょうか? 」
「何が言いたいのですか? 」
聖司はニコッと笑った。
「いえ、ちょっと偶然にしても重なりすぎている事が多いようですから。22年前の誘拐事件と、何か繋がっているのではないかと思いましてね」
「…22年前の事は…私には、分かりかねます…」
そう答える零が、どこか悲しげな目をしているのを聖司は見逃さなかった。
「…僕の母親は、医師だったんです。産婦人科の」
産婦人科の…医師?
聖司は零を見つめて、そっと、零の左手に触れた。
「この左手、義手ですよね? 気づきましたよ、ずっと、右手しか使わないので、きっと義手だと思っていました。この手、もしかして産まれた時に切断していませんか? 」
「な、何なんですか? そんな事…」
「22年前、誘拐されたのは。あの宗田ホールディングの、社長の子供だと聞いています」
「それが何か? 」
「僕の家は、宗田家とは繋がりあるのです。ずっと昔のご先祖様が、宗田家から城里家に養子に来ているのです。その人は、警察官だったけど、警察官を辞めて鉄道員になったって聞いています。なので、他人事には思えなくて。僕も警察官になってから、22年前の誘拐事件について調べていました」
ご先祖が宗田家と繋がりがある? そんな遠い繋がりがあるなんて…。
でも、それだけじゃなさそうな…。
零は聖司をじっと見つめた。
聖司を通して2人の女性が見えた。
1人は優しそうな女医。
そしてもう1人は…あのサングラスをかけた女性、小賀楓。
2人の間には、なんだか深い秘密で繋がっているようなエネルギーを感じた零。
「水原さん、僕の母は…」
コツン、コツン…。
近づいてくる足音が聞こえて、聖司は言いかけた言葉を呑んだ。
そしてゆっくりと振り向いた。
足音が近づいて来て、やって来たのは大雅だった。
仕事帰りでスーツ姿の大雅を見て、聖司はフッと笑った。
零から離れ、立ち上がり聖司はじっと大雅を見つめた。
近づいてきた大雅は、聖司に気づいて立ち止まりじっと見つめた。