嘘と愛
「…ご無沙汰しております。先輩…」
どこか挑戦的な目をしている聖司に、大雅はちょっと厳しそうな目を向けた。
零は2人を見て、何かあると察した。
「驚きましたね先輩。あの、宗田ホールディングに入社されたそうですね。そして、今では副社長だと聞きました」
「そうだが、それがどうかしたのか? 」
「いえ、別に。我が家のご先祖には、宗田家の人が居たと聞いているので。ちょっと親近感を持ってしまったのです」
「ふーん…」
チラッと零を見て、聖司はニコッと笑いを浮かべた。
「水原刑事を迎えに来られたのですか? 」
「そうだが、お前には関係ないだろう? 」
「まぁ確かに。言われるとそうですね」
聖司は大雅に歩み寄って行った。
そして…
「利用しているんですか? 彼女を」
大雅の耳元で呟く聖司。
「はぁ? そんなわけねぇだろ! 勘違いするな」
「…僕もようやくたどり着きました。22年前の真相に…。ディアナは、どうやら偽造パスポートを手に入たようですよ。…」
「…偽造パスポート? 」
「椿…。ディアナと接触していますよ」
「どうゆう事だ? 」
「それは…警察の問題です。言えません」
はぁ? と、大雅は聖司を睨みつけた。
「僕がディアナと椿を捕まえますので、ご安心を。…そして…彼女の事も、僕がもらいますので」
それだけ言うと、聖司は去って行った。
大雅はギュッと拳を握りしめた。
「どうか、したんですか? 」
零が歩み寄ってきた。
「いや、何でもない。あいつに、何か言われなかったか? 」
「特には何も…」
ふと、大雅は零が羽織っている上着に気づいた。
「零、その上着は? 」
「あ、これ…」
零は上着を脱いだ。
「さっきの人。生活安全課の城里聖司さん。雨で冷えて来たからって、かけてくれて。返すのを、忘れました」
「そうか」
「ちょっと、生活安全課の人に渡してきます。待ってて下さい」
零は走って行った。
大雅は聖司の挑発的な態度が引っかかっていた。
同僚だった頃は、誠実な後輩で大雅とも仲良くしていた。
だが大雅が、22年前の誘拐事件の真相に辿り着くと、聖司はだんだんと大雅と距離を置くようになった。
大雅が退職する時、聖司は一言も声をかけてこなかった。
そして今日、再会した聖司はどこか冷たく挑発的だった。
聖司の事が気にかかりながら、大雅は零と一緒に帰って行った。