嘘と愛
家に戻り、大雅は零がお風呂に入っている間に幸喜に電話をかけた。
(え? 城里? …うーん…確かに親戚だけど。随分昔の話しだから、もう遠縁になってしまっているよ)
「そうなんだ…。警察署の生活安全課に、城里聖司という人が居て。城里は、宗田家と繋がりがあるからと言っていたから」
(そうだね。もう、何代も前のご先祖様が養子に行ったって僕もお爺ちゃんから聞いたから。でも、もう随分と遠縁だから。血縁は随分薄くなっていると思うよ)
「そっか。…それから、母さんが偽造パスポートを手にしたと教えてくれたよ」
(偽造パスポート? )
「ああ、たぶん別人に成りすまして出国するつもりなんじゃないかな? そうゆう闇の組織があるって、俺も警察官の時教えてもらったから。警察が探せないのも、その辺りが関係しているのかもしれない」
(そうだな…)
「ねぇ父さん。俺が、ずっと引っかかっていることなんだけど」
(なんだ? )
電話を持ったまま、大雅は窓際に歩み寄り外の景色に目をやってフッと一息ついた。
「…零は父さんの本当の子供なんだよね? 」
(ああ、そうだよ)
「じゃあ…母親は、誰なの? 」
尋ねられると、大雅はちょっと黙ってしまった。
「零が、父さんと血が繋がっているって事は。父さんが、心から愛した人が居るんだろう? その人は…誰なの? 」
しーんとなってしまった。
大雅は幸喜からの答えを待った。
(…そのことは、電話ではなく会ってからちゃんと話をさせて欲しい。…だめか? )
大雅は夜空を見上げた。
「いいよ、それでも。…ちゃんと覚えているんだね? 父さんが、本当に愛した人の事」
(当たり前じゃないか、忘れるはずないだろう? )
「うん。…それを聞いて安心した。俺も、父さんに会って話しておきたい事があるから、時間作ってもらえるかな? 」
(ああ、解った)
大雅が電話を切ると、零がお風呂から上がってきた。
洗面所で髪を乾かしている零。
いつもドライヤーを使わない零だが、幸喜に乾かしてもらってから、ちゃんと乾かそうと決めたようだ。
片手でドライヤーを髪に当てている零。