嘘と愛
心から愛する人
署に戻って、椿の取り調べを行う事になった零。
椿はずっと零を睨みつけたまま黙っていた。
椿の名前を見て、零は個人的になにか強い恨みをもっていると感じた。
零を襲った理由を聞いても黙秘で、ただ睨みつけている椿。
黙秘を続けて数時間経過した頃。
疲れて来たのか、椿は一息ついた。
「…あんた、なんで片手で刑事やっているの? 」
ボソッと椿が言った。
「目的があるからです」
「目的って? もしかして、どうしてその手を失ったのか、それを知りたいわけ? 」
「それは、今回の事とは関係ありません。私の事は、今は答える必要はありません」
「…じゃあ教えて。…」
睨んでいた椿の目が緩んだ。
その目は悲しみでいっぱいになり、どこか助けを求めているような感じも受けた。
「あんたはどうして、お父さんい似ているの? 」
「お父さんとは、貴女のお父さんですか? 」
「そうよ、私のお父さん。宗田幸喜よ! なんであんたが、私のお父さんに似ているの? 」
「それは、貴女の思い過ごしです」
「違うわ! あんたを初めて見た時、お父さんとそっくりだと思った。だから…ずっと不安だった事が大きくなったんじゃない! 」
どうゆう事なのか?
零は椿を見つめて黙っていた。
「…私はきっと、お父さんの子供じゃない。…それは、小さい頃からなんとなく感じていた事よ。お父さんにも、お母さんにも似ていない。お婆ちゃんにも、お爺ちゃんにも似ていないし。お母さんはいつも私を見てくれない。お父さんも、どこか他人を見ているような目で見ていたわ。…中学生の時、大怪我をして出血が多くて輸血が必要だった時。お父さんもお母さんも、私に輸血できなかった。養子に来たお兄ちゃんだけよ、私に輸血できたのは。どうして親子なのに、お父さんもお母さんも私に輸血できなくて。他人のお兄ちゃんが、私に輸血ができるのかって不安だった…」
潤んだ目で零を見つめる椿の目は、とても不安がいっぱいな目をしている。
不安を押し込めるために、誰かを憎む事で自分を奮い立だしているようにも見えた。