嘘と愛
「似ている人なんて、世の中沢山いるわよ。でもあんたは違った…笑う顔も、俯いている顔もお父さんとそっくり。…こうやって目の前で見ると、お父さんに見つめられているようだもの…。だから…邪魔って思ったの。…あんたがいつか、私の事を追い出しに来るんじゃないかって。そう思ったから…」
言い終えた椿は泣き出してしまった。
その鳴き声は悲痛な声で。
子供が捨てないで! と言っているようにも、聞こえるようだった。
「落ち着いて聞いて下さい」
零は静かに言った。
泣いている顔のまま、椿は黙って零を見た。
「貴女の言い分は分かりました。でも、これだけは言えるのです」
零はまっすぐに椿を見つめた。
「貴女が、不安になった気持ちは分かります。でも、何かの事情があったとして。貴女が、宗田家の実の子供じゃなかったとしても。それは、貴女のせいじゃありません」
え? と、驚いた目をして椿は零を見た。
「どんな形であろうと。宗田さんは、貴女を娘としてずっと育てていらっしゃいます。もし、宗田さんが貴女の事を本当の娘ではない事を知っていて。それを黙っているのであれば。それは、宗田さんの貴女への愛だと思います」
「愛? 」
「はい。血が繋がらなくても、貴女は娘だと。宗田さんは、そう思っているのです。なので、きっと…本当の子供が現れたとしても、何も変わらないと思いますよ」
「変わらない? 」
「私も孤児でした。水原さんが、児童施設から養女として引き取ってくれたので、私はこうして刑事になれました。孤児だったと、私も引け目を感じていましたが。今思えば、私を引き取ってくれた水原さんの大きな愛を感じます。なので、貴女も不安になる事はありません。宗田さんは、そんな小さな人間ではありませんよ。貴女は何年、宗田さんと一緒にいるのですか? 」
さっきまで憎い人…ムカつく人だと思っていた…。
でも今は…零の言葉が優しく椿の心の響いてきた。
不安を抱えていた椿。
でも、幸喜は一度も椿に「お前は他人だ」とは言ったことがない。
いつも優しくて、椿がわがままを言っても何も言わないで見守てくれている…。
寂しさと不安を紛らわすために、お金を使う事に依存して、お給料をもらってもすぐに使ってしまっても…カードを限度額まで使っても…お金が足りないと言って大金を借りても…幸喜は何も言わずに、どんなに大きな金額でも出してくれていた。
時々「お金を使うよりも、もっと楽しい事がると思うよ」と言っていた幸喜…。
怒らないのは他人だからだと思っていたが、今思えば、幸喜は見守っていてくれたのだと思う…。
椿はとがっていた気持ちが、スーッと引いて行くのを感じた。