嘘と愛
「生みの親より育ての親と言います。一緒にいた月日を、信じて欲しいのです」
椿は何も言い返せなかった。
不安を怒りに変え、零に向けていた。
怒りに身を任せて殺してやろうと思った。
でも…
今は完全に負けてしまった。
零の言葉は、まるで幸喜に言われているように感じた。
その後、椿は素直に罪を認めた。
殺意はあるものの、感情的からきた行動から傷害罪に値することだったが、本人に反省の色が見られ零も被害届を提出しない事として今回は書類送検になった。
数日間の拘留の後。椿は一旦家に帰ったが幸喜と顔を合わせるのは辛いと言い出した。
話し合った結果。
夏樹と空が、一緒にアメリカに行こうと誘った。
椿は考えた末、夏樹と空と一緒にアメリカに行く事を決めた。
その代わり。
椿は1つだけ条件を出した。
それは、椿の本当の両親を見つけ出して欲しいと。
もう22年経過していて、見つからないかもしれないが手を尽くして欲しいと。
アメリカに旅立つとき、椿はとても穏やかな顔をしていた。
そして
「あの人は、本当にお父さんとそっくりだった。言ってくれる言葉も、お父さんが目の前にいたら同じことを言うんじゃないかって、そう思ったの」
そう言って、椿は夏樹と空と一緒にアメリカに旅立った。
何となく幸喜は寂しさを感じたが、1つの壁を乗り越えたような気がしていた。
椿がアメリカに旅立ち数日後。
幸喜は外出からの帰り道、駅前を歩いていた。
すると…
前方からサングラスをかけた楓が、歩いて来るのを目にした。
嬉しそうに目を見開いた幸喜は、楓に駆け寄ろうとした。
だが…
楓の後ろからやって来た大雅を目にして、足を止めた。
「大雅? 」
様子を見ていると、大雅と楓は何か親しそうに話しながら、駅前のほうへ歩いて行った。
気になった幸喜はこっそり後をつけて行った。