嘘と愛
2人が向かったのは、以前会っていたカフェ。
幸喜はカフェの外から様子を見ていた。
窓際に座っている楓と大雅。
大雅は楓に封筒を渡している。
中を確認した楓は、鞄から封筒を取り出し大雅に渡した。
ちょっと大きめの厚手の封筒。
封筒を渡し楓は少し大雅と話をすると、先に席を立った。
しばらくすると楓が店から出て来た。
楓にばれないように、幸喜はそっと物陰に隠れた。
楓は幸喜に気づくことなく楓はそのまま歩いて行った。
気になった幸喜は、歩いてゆく楓の後を気づかれないように着いて行った。
楓の跡を着けてゆくと、駅から港方面のバスに乗り込む楓がいた。
幸喜も気づかれないように同じバスに乗り込んだ。
どこへ行くのだろう、もう暗くなっているのに…。
そう思いながら幸喜は楓がどこで降りるのかずっと見ていた。
バスの終点。
そこは船が出入りする港。
おしゃれなオープンカフェがあり、そこは年中賑わっている。
バスから降りた楓は港の方へ歩いて行った。
そのまま船の行き交う港へやって来た楓は、泊っている船を見つめ何か考え込んでいるようだ。
すっかり辺りは暗くなり、港の灯りと泊っている船の灯りだけが輝いている。
船を見つめている楓は、今にも泣きそうな口元をしていた。
離れて見ていた幸喜は、なんとなく楓の気持ちが伝わってきた。
あの、雨に打たれていたイリュージュの姿と重なって見えて。
楓が泣いているのではないかと思えてきてズキンと、胸に痛みを感じた幸喜…。
あたりが暗くなったのに楓はサングラスを外さない…。
1人ポツンと佇んで、誰にも見られない場所で泣いているようだ…。
「…ごめんなさい…幸喜さん…」
消え入りそうな小さな声で、楓は幸喜に謝っていた。
サングラスで表情は分からないが、声を殺して楓は泣いていた…。
すると…
ふわりと、後ろから抱きしめられ、楓はハッと驚いた。
「…動かないで、そのままでいて…」
楓を抱きしめたのは幸喜だった。
幸喜の声に楓は驚いて息を呑んだ。
「ずっと1人で泣いていたんだね。君は、何も悪くないのに」
スッと楓の頬を涙が伝った…。
その涙は抱きしめている幸喜の手に落ちてきた。