冷たい雨
「ごめんね、何か余計な心配かけちゃって……。
 白石くんも、今日は私が余計な事を言ってごめんね。結局クラス委員は……」

 申し訳なさそうに瀬戸さんが僕に謝罪の言葉を述べるけど、今はそれどころではないだろう。

「もういいよ、そんな事。それより倒れたって聞いたんだけど……、起き上がって大丈夫なの?」

 瀬戸さんはドアノブに手を掛けたままだ。顔色も悪いし、きっと自力で立つのは無理だからドアノブから手を離さないに違いない。家の人はいないのだろうか。

「うん……、さっきと比べたら少し落ち着いたから。ごめんね、びっくりさせちゃって。
 それと由良も、わざわざ白石くん連れて来てくれてありがとう」

 この時の笑顔が、何だか今にも消え入りそうな儚げなもので、僕は何だか視線が外せなかった。
 もしかしたら今、かなり無理して起き上がって来てくれたのかも知れない。

「梓紗、顔色良くないよ。私達もすぐ帰るから早く横になって休んで。
 これ、明日の時間割と現国の課題出てる奴」

 加藤さんは鞄の中からクリアファイルに挟んだレポート用紙と現国の時間に渡されたプリントを手渡した。
 瀬戸さんはそれを片手で受け取った。

「ありがとう。多分明日は学校行けると思うけど、もしかしたら保健室にこもってるかも知れない。
 使い物にならないクラス委員でごめんね」

「そんな事気にしなくていい、体調悪かったら休めばいいんだから。無理して学校に出てきて余計悪化したら元も子もないだろう?」

 僕の言葉に加藤さんも頷いている。

「そうだよ、中学校の時みたいに無理しちゃダメだって。貧血って軽視していたら大変な事になるって聞いたことあるよ。梓紗もしっかり養生して貧血直さなきゃ」

 加藤さんの言葉に、瀬戸さんは頷くだけだ。

「もう僕達帰るから、瀬戸さんは早く布団の上で横になって身体休めて。
 明日しんどかったら無理しなくていいから」

 こんな事を言ってもきっと瀬戸さんは無理をするに違いない。
 それでも言わずにはいられない程、今の瀬戸さんは見るからに弱っている。
 何とかしてあげたくなる位、僕の庇護欲を掻き立てた。
 
 瀬戸さんが玄関のドアを閉めるのを僕と加藤さんが見守って、僕達はその場で解散した。
 僕は彼女達の通っていた中学校の隣の中学校区に住んでおり、高校へは自転車通学だった。
 加藤さんとは瀬戸さんの家の前で別れると、自転車のペダルを漕いで自宅へと向かった。

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