冷たい雨
 翌日学校に到着して教室で瀬戸さんが来るのを待っていた。
 やはり体調が思わしくないらしく、欠席の連絡があったと朝のホームルームで担任がクラスのみんなに伝えた。

 クラス委員である僕は、彼女の分も授業のノートを纏めて放課後、加藤さんと一緒に瀬戸さんの家にレポート用紙を届ける事となった。

「白石くんてさ、学年一の成績なの頷けるわ」

 瀬戸さんの家に向かう途中、唐突に加藤さんが口を開いた。
 昨日と同様に、僕は自転車を押して加藤さんの歩幅に合わせて歩いている。

「だってさ、ノートの取り方が凄く的確で分かりやすいもん。
 先生の授業の黒板丸写しするにしても、白石くんのノートの方が綺麗にまとめられててすっきりしてるし」

 ノートの取り方は自分なりに色々と試行錯誤した末に行きついた方法だった。
 『勉強』と重圧をかけられてやらされている感があるとやる気なんて全く起こらないけれど、自分が『知りたい』と思った事に関しては、不思議な事にいくらだって時間を費やす事に苦痛を感じない。
 僕の場合、雑学から勉強への興味が湧いた事がきっかけだった。教科書に書かれている事の脇道に逸れた事に興味を持ち、そこを追及して色々と調べていくうちに、自然とノートを取る力が身に付いた。

 学校の勉強も知識が身に付くと思ったら、これまた不思議と自然と苦痛がなくなった。
 そんなこんなで勉強する楽しさを身に着けた僕は、それなりに学力が上がった訳だけど、結局それに慢心してしまい、肝心な高校受験を失敗してしまっている訳だから偉そうな事は言えない。

「梓紗もきっと喜ぶよ。白石くんと仲良くなりたいって言ってたから」

 加藤さんの言葉に、僕の思考は一瞬フリーズした。
 瀬戸さんが? 僕と? 何故? 頭の中に疑問符が沢山湧く。

「梓紗って、あんな風に誰とでも分け隔てなく仲良くしたいって言う子だから、教室でずっと一人でいた白石くんの事、心配していたんだよ。どうやったらみんなの輪の中に溶け込めるかって。
 白石くんの出身中学校の子って誰もいないから、きっと一番に友達になりたかったんだと思うよ」

 加藤さんの言葉に、僕は何一つ言い返す事が出来なかった。
 もしかして瀬戸さんは僕に同乗していただけなのか?
 高校受験に失敗して志望校じゃない学校に進学し、誰も知り合いなんていない、ぼっちな僕。
 そんな僕が哀れに見えたのか。
 同情されてしまうなんて僕もまだまだだな……。
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