冷たい雨
 昨日同様に加藤さんは一人でマシンガントークを繰り広げるも、僕はそんな加藤さんの言葉は耳に入って来なかった。相槌も打たせる事なく一人喋り続ける加藤さんに、よくもまあそんなに話すネタがあるものだとある意味感心してしまう。
 そしてあっという間に瀬戸さんの家の前に到着すると、加藤さんは昨日と同様にインターフォンを鳴らした。

 少しして玄関に顔を出したのは、恐らく瀬戸さんのお母さんだろう、背格好もだけど瀬戸さんに目元がよく似ている。きっと年齢を重ねたら瀬戸さんもこんな風になるのだろうと彷彿とさせる。
 瀬戸さんのお母さんは加藤さんと僕と言う組み合わせに一瞬驚いた表情を見せるものの、瀬戸さんによく似た笑顔で迎え入れてくれた。

「由良ちゃん、いらっしゃい。こちらの彼は初めまして、だよね? 梓紗の母です。
 今日はお休みさせたけど、多分明日は学校に行けると思うから心配かけてごめんね」

 流石親子だけあって、声、喋り方もよく似ている。
 そんなお母さんに加藤さんが返事をする。

「おばさんこんにちは、梓紗の調子はどう? 前みたいにぶり返しちゃったかと思って心配だったの。
 こちらは梓紗と同じクラス委員の白石遼くん。
 今日の授業のノート、白石くんが纏めてくれたから一緒に持って来たの」

 加藤さんの返事に、瀬戸さんのお母さんは目を細めた。

「そうなの? 白石くん、わざわざありがとう。
 良かったら二人とも部屋に上がって貰いたいんだけど、梓紗も今日はパジャマのまま着替えてないから流石に恥ずかしいだろうし、また今度ゆっくり遊びに来てね」

 突然の訪問で、僕も流石に家に上がり込むつもりはなかった。
 それに、昨日も瀬戸さんは無理していたのだから、せめて学校を休んでいる今日くらいは、誰に気を遣う訳でもなくゆっくり身体を休ませて欲しいと思う。

 僕達は玄関先で瀬戸さんのお母さんとやり取りを済ませると、昨日と同様に即解散した。
 家に帰る途中、昨日の瀬戸さんの儚げな表情を思い出しながらペダルを漕いだ。
 明日は元気に学校に来れるといいな……。

 翌日、いつもと変わらない様子で瀬戸さんが登校して来た。その姿を確認し、僕は秘かにホッとした。
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