冷たい雨
 余命宣告も受けてる事だし、本当ならこうやって悲しい思い出を二人に残したくないんだけど……。
 少しでも、二人の為に長生きしたい。
 でも放射線治療や抗癌剤を投与してもこの有り様だし、ドナーバンクからも型が一致したって連絡もない。
 多分延命治療をしたところで私は入院したら最後、無菌室に入れられて面会謝絶になって一人で死んでしまう事になると思う。
 それだけは嫌だった。それなら、残り僅かの命を、私の青春を、人生を謳歌したい。
 最後の我儘を聞いて貰った結果がこれなの」

 梓紗の言葉に僕達は何も言葉が出ない。

「最初、自分の身体に違和感を覚えたのは中学校に入ってから少しして、微熱が続いた事。
 風邪ひいたのかと思って市販の風邪薬を飲んでたけど全然効かなくて。小児科にかかっても、風邪の診断でお薬を処方されただけで、それを飲んでも全然効かなくて。
 そのうち熱も下がったし、いつも通りの生活を送ってたけど、本格的におかしいなと思ったのは、内出血がなかなか治らなくなった時。
 白血病って、白血球が癌化するから正常な働きをしてくれなくて、血液を止める機能が効かなくなってた」

 僕達は、梓紗の体調の変化を黙って聞いている。
 梓紗は淡々と語っているけれど、これが僕の身に降りかかっていたとしたら……。
 果たして僕は、ここまで冷静になれるだろうか。
 いや、無理だ。絶対に無理だ。自暴自棄になって、八つ当たりして、みんなに迷惑をかけまくっているだろう。

「そのうち粘膜系も弱って来て、鼻血が頻繁に出る様になって、微熱も下がらなくなって、小児科ではお手上げで総合病院に紹介状を書いて貰ったの」

 病気が判明するまでに、二年ほどかかったと言う事だ。
 もしかしたら小学生の頃にも発症していたのかも知れないけれど、その頃は特に気になる事がなかったと言う。

「中学二年の三学期は、何とか乗り切ったけど、三年になってからは学校に行くのは無理って言われた。実際に抗癌剤を投与されたり放射線治療を始めたら、これが本当に身体が自分の言う事を全く聞かないの。
 気持ち悪くて吐き気は止まらないし、倦怠感は半端じゃないし、免疫力が低下してるから無菌室に入らなきゃだし、隔離されるのってこういう事なんだって実感した」

 闘病生活を振り返りながらも、なおも口調は淡々としている。
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