冷たい雨
 話の内容は想像が付かないけれど、とても壮絶な物だ。倦怠感なんて、インフルエンザに感染して高熱が出た時のしんどさしか思い浮かばないし、嘔吐は小学生の頃に嘔吐下痢に感染した記憶しかないけれど、常に吐いて体力を消耗してぐったりとしていた記憶が蘇る。どれも数日で収まったけれど、それがずっと続けば起き上がれなくなるのも頷ける。

「そのうち抗癌剤と放射線治療の後遺症で全身の体毛が抜け落ちて、毎日、鏡で自分の顔を見るのが苦痛だったよ。
 抜け落ちて行く髪の毛が気になって仕方なくて、長さを短くしたら気にならないかと思って短くしても、抜ける量は変わらないし、それならもうここで隔離されてるし先に剃っちゃえってバリカンで剃り落として、部屋の外に出る時は帽子を被ったりカツラを被ったりしてた。
 カツラもね、退院して地毛が伸びた時に違和感がないようにショートヘアの被ってみたりしたよ。でも、ずれたりしないか心配は尽きないし……。
 そこに飾られている写真もね、退院して家に帰った時に見るのが本当に辛かった」

 白血病の治療の後遺症も、思春期の女子じゃなくても深刻な悩みだ。
 僕だって、中学校は校則で坊主頭が標準仕様だった。小学校を卒業する時に髪を短くしなければならない事が本当に嫌で中学校に行きたくないと思っていた。僕の場合は男子生徒全員が丸坊主頭なので仲間がいる安心感もあったけれど、梓紗は違う。女の子で、病気の副作用で髪の毛が抜け落ちるのだ。しかもそれがすべて綺麗に生え揃うとは限らない。本当に不安だらけだっただろう。

「一学期はカツラ被ってたけど、今の髪の毛は地毛だよ。ベリーショートだけど、自分では似合ってると思ってる。変じゃないよね?」

 そう言いながら、点滴を受けた手で自分の髪の毛を触っている。
 確かにとても短いけれど、その髪型は梓紗にとても似合っていると思う。ショートヘアの梓紗しか知らないけれど、違和感なんて感じない位に馴染んでいる。一学期の出会った頃がカツラだっただなんて、言われなければ気が付かなかった。
 僕も加藤さんも頷いている。

「もしかして、カツラを止めたのは花火大会の日から……?」

 加藤さんがポツリと呟いた。この声が梓紗にも届いていたから、梓紗も頷いた。

「うん、そう。だから柄にもなく髪の毛にワックス付けたりして、毛先を遊ばせたりして、印象を変えてみた。
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