冷たい雨
「私が亡くなった後、二人には私の後を追いかけて欲しくないから、遼も由良も、精一杯生きて。
 向こうで首を長くして待ってるから。二人が年老いてしまって、顔が分からなくなってたらいけないから、その時は私を見付けてね。
 きっと私はこの姿で変わらないと思う。
 で、向こうの世界で、私が亡くなった後どうやって過ごして来たか、色々お土産話聞かせてね?」

 梓紗の言葉は、まるで辞世の句の様に僕の心の中に刻まれて行く。
 僕達は何も言えずに、泣きながら頷いた。
 梓紗だって本当なら僕達と一緒に高校生活を送りたいのに……。
 一緒にバカを言い合って、同じ時間(とき)を過ごしたいのに……。
 これから僕と一緒に同じ気持ちを確かめ合って、愛を深めていくはずなのに……。
 加藤さんと休日一緒に買い物に出掛けたり、遊びに行ったりするはずなのに……。

 梓紗に残された時間は、本当に残り僅かなのだと思い知らされる。

「もし、骨髄提供者が現れたら……。
 その時は、骨髄移植を受けるけど、多分、そんな奇跡は起こらない……。
 これ以上治療をしても回復の兆しが見えないなら、これ以上しんどい思いをしたくない。
 わがまま言って、ごめんね」

 梓紗はそう言って、静かに涙を流した。

 もし僕が梓紗の骨髄の型と一致していたら、すぐにでも骨髄提供をするのに、僕にその資格がない事がとても悔しい。
 今現在、骨髄提供をしたくてドナー登録をしようにも、僕はその条件に該当しないのだ。
 ドナー登録の条件の最大の壁は、その登録年齢だ。
 十八歳以上、五十四歳以下と、年齢の下限にもかすらない。
 十五歳の僕には、梓紗を助ける事が、ドナー登録をする事すら出来ないのだ。
 献血にしてもそうだ。こちらも年齢制限でどうしても引っかかる。
 二百ミリリットルの献血でさえ、年齢制限があるのだ。年齢の下限が十六歳。僕が十六歳になるまであと一ヶ月。十一月生まれの僕は、そこまで待たないと梓紗の為に献血をする事すら叶わないのだ。

「花火大会の日、由良と色違いのワンピースを着れた事、とっても嬉しかった。
 由良と一緒に買い物に行って、お揃いの物を買って……。私の宝物だよ」

 梓紗の言葉に、加藤さんが泣きながら梓紗に抱き着いた。
 肩を震わせて、梓紗の言葉の一つ一つに同意を示して頷いている。
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