エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
それは乳製品メーカーの新商品で、やはり宅配のセールスレディが試飲して気に入ったら注文してほしいと無料でくれたものである。

部屋に戻る選択肢は消され、詩織は矢城の向かいの椅子に腰かけた。

(どうしよう。気持ちを伝えたいのに、口に出せない……)

目を泳がせる詩織をじっと見つめる矢城が、柿ピーを口に放り込んで言う。

「言いにくそうだから、俺から言うか。ここを辞めて女優に戻りたいんだろ? いいじゃないか。俺に遠慮せず、復帰しなよ」

「えっ? ち、違います!」

実は数日前、元の所属先とは別の芸能事務所、二か所から電話がきた。
うちでリスタートしないかと。

それを詩織は迷うことなく断った。
芸能界は自分に向いていないと、不倫騒動の件でつくづく感じたからだ。

お芝居するのは楽しかったが、女優になったきっかけはスカウトで、昔から夢を追いかけていたわけでもない。
未練はないのだ。

慌てて否定したら、矢城が眉を上げた。

「てっきりそういう話かと思ったが、違うのか。それなら、なに?」
「あ、あの……」

矢城に心配をかけている以上、もう逃げてはいけないと詩織は自分に言い聞かせた。
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