エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
矢城の種明かしをバッサリ斬り捨てた詩織は、一度腕を解くと、急いで矢城の正面に回った。
彼の右手を両手で握り、自分の胸に引き寄せて膨らみに押し当てる。

いやらしい意味はなく、ドキドキしているこの恋心を伝えたいという純粋さからの行為に、矢城が面食らったような顔をした。
その頬がわずかに赤く染まる。

「矢城先生との心の距離を縮めたいんです。先生に必要とされる女性になれるよう、頑張らせてください。取りあえず、今夜、抱き枕になってもいいですか?」
「は?」

矢城に目を見開かれて、詩織は随分と恥ずかしいことを言ってしまったとハッとした。
火を噴きそうな羞恥が一気に押し寄せ、慌てだす。

「あ、あの、襲ってほしいという意味じゃないのでご心配なく。そういうのは、やっぱり恋人になってからじゃないと……。隣で寝起きすれば、距離が縮まるかと思いまして……」

真っ赤になりつつ、しどろもどろに説明する詩織に、矢城が「そういう意味か」と少し呆れて言う。
「危なっかしくて心配は尽きないな」と嘆息し、額に落ちかかる前髪を掻き上げた。

「詩織ちゃんは、俺の寝室に立ち入り禁止な。添い寝で済むはずがないだろ。男はみんなケダモノだ。俺だって欲望に負けて食っちまう」

(それって、恋愛対象に入れてもらえているということ……?)

矢城は詩織の頭をポンと叩き、「お休み」と寝室に引きあげる。

均整の取れた後ろ姿を見送りながら、詩織は緊張を解いて息をついた。
その口角が上向きになる。
人生初の告白はフラれて終わってしまったが、収穫はあったように思う。

(言えてよかった……)

今はそのことに満足した詩織であった。


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