エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
諦めるのはやめにした

「矢城先生、ただいま!」と美緒が元気に帰ってきた。
六月に入ると日差しは強まり、汗を滲ませているようだ。

留守番の詩織は、そろそろ日の傾く時間なので、弱めに稼働中の冷房を止めようかと思ったところであったが、やめにした。
借りていた赤沼の席を立って、玄関へと出迎える。

「美緒ちゃん、お帰りなさい。矢城先生は出かけていて、もうすぐ帰ると思うよ。ここでおやつ食べて待ってる?」

午前中に役所などを回った帰り道で、詩織は商店街の和菓子屋に寄った。
目当てはカステラの切れ端の詰め合わせで、袋いっぱいに入ったものが三百円というお得さである。

それに、小豆を混ぜた生クリームを添えれば、見た目も味も素敵なおやつになる。
美緒に食べさせたいと思い、小豆クリームも用意済みだった。

それを話して笑顔を向けた詩織に、美緒が口を尖らせる。

「なんか詩織ちゃんの言い方、矢城先生の奥さんっぽくて嫌」
「え、そうかな? そんなつもりじゃなかったんだけど」
「矢城先生を好きになるのは許してあげる。でもお嫁さんになるのは美緒だよ。詩織ちゃんは愛人ね」

(意味わかってないよね……?)

おやつは食べると言って、美緒はランドセルを置きに階段を上っていった。
詩織は衝立の裏に回り、美緒のおやつを皿に盛りつけ、牛乳と一緒に食卓テーブルに置いた。
手を動かしつつ、眉尻を下げる。

(すぐバレてしまったよね……)

詩織が矢城に告白したことは、その二日後には住人全員が知るところとなった。
背中を押してくれたナワポンにだけ報告したら、皆が集まる夕食の席で暴露されてしまったからだ。

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