エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
その思いで矢城の下から這い出ると、仰向けになるようお願いして上に跨った。
目を瞬いた彼。
意表を突くことができて、そこまではよかったのだが、この後どうしていいのかわからず、詩織はうろたえた。

「あ、あの、私が動いてみようと思ったんですけど……」
「それもいいな。やってくれる?」

矢城に喜ばれて、詩織は動いてみる。
けれども、あまりにもぎこちない腰つきで、矢城を笑わせてしまった。

「ごめんなさい……」
シュンと肩を落としたら、腕を引っ張られて強く抱きしめられる。

「いや、すごくいい。その一生懸命さに、逆にそそられた。ああ……可愛いな……」

呻くようなため息を漏らした矢城が、体を反転させた。
再び詩織を組み伏せて、数秒黙って見つめてから、切なげに微笑する。

「詩織ちゃん、俺に惚れてくれてありがとう。おかげで前に進めたよ。俺も君に応えたい」

「愛してるよ」という囁きが、詩織の唇にかかる。
震えるほどの喜びが湧き上がり、詩織の瞳を潤ませた。

なにをしたわけではないけれど、矢城が囚われていた自己嫌悪という名の檻から抜け出すきっかけになれたのなら、こんなに幸せなことはない。

天井や後ろの本棚に、膨張した矢城の影が映っている。
それがリズムを刻みだした。
今度は意地悪さのない、詩織に合わせた心地よい速度で。

とろけるようなキスに、優しい愛撫。
彼の動作のひとつひとつに愛情を感じる。

得も言われぬ幸福感にぼんやりと揺れつつも、溢れそうなこの愛しさを伝えたくて、彼の背に両腕を回した詩織であった。


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