エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
廊下にまで聞こえたということは、赤沼の部屋にはもっとはっきりと届いたのではないかと思ったのだ。

視線の合った赤沼は、眼鏡の奥の瞳を険しくする。
「僕は聞いていない。最近は耳栓をして寝るようにしているから」

耳栓が必要ということは、聞いてしまった夜もあったということだろう。

「ごめんなさい……」

詩織は目を逸らして小声で謝る。
顔を赤くしていいのか、青くしていいのかわからず、いたたまれない動揺の中で、両手で顔を覆った。

一方、矢城は「参ったな」と笑っており、のんきでいられる強靭なハートが羨ましい。

「それでこれをくれたのは、ラブホテルで存分にやれってことか」

矢城は指先に割引券を挟み、詩織にウインクした。

「いつ行く?」
「い、行きません!」
「なら、早めにリフォームしないとな」

防音壁の工事をすると言っていたのは、冗談ではなかったようだ。
それだけではなく、結婚するにあたり、一階部分の大幅なリフォームをすると矢城は言った。

今は衝立を並べて区切っているだけの生活スペースと事務所スペースを、壁で完全に分ける。
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