エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
「その通りだけど、今はパートナーシップ制度というものがあって、同性カップルの関係を自治体が証明してくれる。そもそも僕は結婚したいわけじゃない。お互いに必要不可欠な存在として、矢城先生と愛情を――」

美緒と赤沼が口論し、あくびをした矢城は「俺は成人女性がいいんだけど」とぼやきながら、書類の山から新たな一枚を手に取っている。

「先生、いつもうるさくしてすみません」と細貝はペコペコし、ナワポンは笑いながら衝立の裏に向かう。

「台所、借りるね。栄養いっぱいのお鍋で、みんなを元気にしてあげるよ」
(すでにみなさん、すごく元気ですよ……)

こんなに賑やかでアットホームな法律事務所が他にあるだろうかと、詩織は考えていた。
昨年、弁護士もののドラマにチョイ役で出演したことがあったが、スタイリッシュな広いオフィスに何十人もの弁護士とパラリーガル、事務員が働いている設定で、職員間の和気あいあいとした雑談はほとんど台詞になかった。

(私の知っている法律事務所と全然違う。でも私は、こっちの方がずっと好き……)

詩織は相談室に移動させたノートパソコンを急いで持ってくると、応接用のローテーブルにおいて仕事を再開させた。
温かで賑やかな雰囲気は、心の傷薬のよう。
ほんの一週間前までは人が怖くてたまらなかったのに、今はここの住人たちと一緒にいたいと思うのだ。

(私の新しい居場所……)

間違えないように気をつけて文字を打ち込みつつ、頬を緩めた詩織であった。


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