エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
好きにならずにいられない
「キャアッ! す、すみません。歯磨きしようと思っただけなんです。後にします」
衝立の奥の雑多な生活スペースで、詩織は真っ赤な顔をして、慌てて矢城に背を向けた。
「気にすんな。おっさんの半裸に、なんの価値もないだろ」
朝八時。
矢城はシャワーボックスから出たばかりで、腰にバスタオルを巻いただけの姿である。
トレーニングしている様子はないのに、ほどよく引き締まった肉体美。
男らしさと美しさを兼ね備え、均整の取れたその裸体は、一瞬見ただけで詩織の鼓動を否応なしに高まらせた。
矢城はよく自分を“おっさん”と言うけれど、寝ぐせや無精ひげ、少々身なりに雑な面があっても、そうは見えない。
三十七歳。今が男盛りといった色気が、無自覚な本人から漏れ出ていた。
詩織は立ち尽くしたまま、オロオロして自分を責める。
(気をつけないと、迷惑かけてしまう……)
シャワーボックスは台所の横に後付けされたもので、脱衣場がない。
そのためシャワー上がりに鉢合わせる危険性があって、詩織がシャワーを使う際には、必ず矢城にその旨を伝えていた。
そうすれば矢城は衝立の奥には入らないでいてくれる。
矢城の場合は誰に断ることなく、好きな時にシャワーを浴びているけれど、それは音で気づくことができるので、詩織は注意して鉢合わせないようにしてきた。
今日、矢城の裸を見てしまったのは、ここにきて二十日ほどが経ったことで、気が緩んでいたのかもしれない。
後ろで矢城が、冷蔵庫を開けている音がする。
視界に彼を入れないよう、事務所の方に逃げようとした詩織だが、声をかけられる。
「あれが、ないな。詩織ちゃん、俺のヤクルトン飲んだ?」
「あ、はい。今朝もひとついただきました。矢城先生のものなのに、すみません……」
冷蔵庫の中のものは、勝手に飲食していいと言われている。