エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
ふと、そんな風に勘繰ってしまった時もあった。
矢城の下心に関して、他にも引っかかる会話をしたことがあるからだ。
それは、この建物に関しての話だ。
味わいがあって古い建物が好きだと詩織が感想を伝えたら、矢城が頷いてこう言った。

『年季の入った建物はリフォームしないと不便で住めないし、メンテナンスに手間と費用がかかるから実際は大変だ。それはわかっているが、このまま壊されるのはもったいないと思って買い取ったんだ。できるだけ保存していきたい。元女子学生会館だっていうからさ。貴重だろ』

(男子学生会館だったのなら、買い取らなかったということ……? ううん、矢城先生に限って、そんなことは……)

ヤクルトンの女性販売員と女子学生会館について思いを巡らせたら、小関の顔が頭に浮かんだ。
小関が詩織に優しい言葉をかけたのは、下心に他ならない。

後から知ったことだが、小関に誘われたことがある業界関係者は詩織の他にもいるそうだ。
彼が大女優の夫だというのは業界では知られた話で、騙されて不倫関係に至ったのは詩織だけのようだが……。

胸が後悔と悲しみで苦しくなる。
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