エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
謝罪ではなく、『いつも余らせて賞味期限が切れるじゃないですか。買いすぎなんですよ』とでも言わせたかったのだろう。
詩織が心を楽に、ここで暮らしていけるように。

矢城の心遣いを嬉しく思う詩織であったが、恩人で十五も年上の彼に文句を言えるような性格ではないので困ってもいた。
そして困っているという、その気持ちさえも口にできない。

「努力してみます。すみません」とオドオドしながら答えれば、梳かした下し髪がぐちゃぐちゃになるほど撫でられた。

「わかってないな。それとも『すみません』は口癖? 今後、俺に対してすみませんと言ってはいけないよ。ついでに敬語も禁止にしようか」
「えっ? それはちょっと、私には無理が――」

驚いて思わず振り向いたら、矢城の男らしい裸を目にしてしまう。

「おっ、無理って言えたな。いい調子」

矢城が瞳を弓なりに褒めてくれたが、詩織は耳まで赤くして両手で顔を覆った。
もちろん鼓動は最大限まで加速している。

「矢城先生、すみませんが服を着てください。どこを見ていいのかわからなくて……」

すると一拍の沈黙の後に、クスリと余裕のある笑い声がした。
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