ほろ苦彼氏の甘い口づけ
確かに、食事も楽しむなら、早い時間に行くほうがゆっくりできるよね。


だけど……終電という言葉で断るには、あまりにも早すぎでは⁉ まだ8時台だよ⁉

夜中まで長居するつもりだと思ったのかな……。



「そんな落ち込むなよ。明日出勤日なんだろ?」

「うん。でも、お昼からだから大丈夫かなって」

「なるほど。それでも、帰りが遅いと寝る時間も遅くなるし。疲れが取れないままだと、仕事するのも大変だろうからさ」

「……そうだね」



お互いの予定を把握した上での発言だったのだが、司のほうが一枚上手だった。

最大限に楽しめるように先まで見越して、さらには私の健康も考えてくれて……。



「まだ春休み始まったばかりじゃん。それに明後日も会えるんだし。元気出してよ」

「……うん」



鉄仮面の隙間から見えた微笑み。

優しさが心に染みると同時に、向こう見ずに誘った自分を恥じたのだった。
< 23 / 86 >

この作品をシェア

pagetop