ほろ苦彼氏の甘い口づけ
しかし、私達が入った学校は小学校時代の仲間が少なく、およそ7割が他校出身。

たとえ友達でも異性同士。そして中学生といえば、思春期に突入するお年頃。


下の名前で呼ぶと、茶化されたり、変な噂を立てられるかもしれない。

それが原因で気まずくなるのは嫌だったから、教室にいる時や周りに人がいる時は名字で呼んでいた。



「まぁ結局、私がヘマしたせいで意味なくなっちゃったけどね」



いちごチョコ味のドーナツを味わいながら振り返る。


あれは5年前の夏。6月最終日の朝。

強い雨風に煽られて傘が折れてしまい、ずぶ濡れで登校した時のこと。



『新淵、おはよう』

『おはよう、華……えっ、その頭どうした?』

『……傘、壊れちゃって』

『マジか……。そういやさっき風強かったっけ。災難だったな。着替えは……』

『……教科書とノートと筆箱しか持ってきてない』

『だよな。とりあえずこれ羽織って。服借りられるか先生に聞きに行こう』
< 27 / 86 >

この作品をシェア

pagetop