ほろ苦彼氏の甘い口づけ
『ええっ⁉ 待ち合わせ相手って華江⁉』

『……そうだけど』



校舎に響くほどの声量で驚く彼に、司は面倒くさそうに顔をしかめる。


同じ小学校の子や信頼できる友達の前でうっかり口が滑ったことはあったものの、他の生徒はおろか、先生の前では徹底して名字呼び。

話す時でさえ、怪しまれない程度の距離をずっと保っていた。


卒業式の日まで貫き通す予定だったのに……。



『マジかぁぁ! お前らってそういう関係だったの⁉』

『勝手に決めつけるな。華江とは家が近所なだけ。今朝の強風で傘が壊れたから送るだけだ』

『ふーん。でも、それだけで相合傘なんてするかぁ? 傘壊れたんなら服みたいに借りればいいのに』



ハッキリした口調で説明するも、納得がいっていないようで執拗に詮索している。



『なんでもかんでも借りればいいってわけじゃないだろ』

『まぁ、そうだけどさ。じゃあなんでさっき下の名前で呼ばれてたわけ? いつもは名字なのに』
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