ほろ苦彼氏の甘い口づけ
『面倒なことに巻き込んでごめん』

『いや、悪いのはちゃんと確認しなかった私だから。ごめんね』

『謝らなくていいのに……。一応追っ払ったけど、もし何か言われたらすぐ相談しろよ』

『……うん』



出会った頃と変わらない、厳つい鉄仮面と優しい声色。

だけど、ほんのわずかな違いに気づいて、私は小さく返事をした。


傘を持つ腕の筋肉や、上下するのど仏。
話す時に少し上目遣いをしないと視線が合わないところとか。

入学当初は体格も背丈もほとんど同じだったはずが、いつの間にか私よりもうんと大人っぽくなっていた。


気づいたのも全部、肩と肩が触れるくらいの距離だからこそ。

これがただの同級生ならドキッとするのだろうけど……。



『とはいえ、多分誰かに話すだろうな』

『だね。黙ってはいられないと思う』



同性ならともかく、男女の相合傘なんて、いじるには恰好のネタ。

否定したけれど、今はテストが終わってみんな開放的になっているだろうし。


さらに明日からは夏休み目前の7月が始まる。

テンション高まる時期。
教室で注目を浴びる可能性は充分ある。
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