陽光
 

「あっはっは、フラれたか」

「笑い事じゃないす」
「や、それは杨、お前が悪い。職務中に盛るな」
夏莫尼(シャモニ)看守部長、俺はもう辞めたいです、マジで」
「まだ二日目だよ」

「お疲れ様です」


 みんなが俺をいじめる、と(のたま)っている様を小耳に挟んで(ヤン)を睨んだら、先に食事を終えた私はそのまま配膳返却口にトレーを返して帽子を目深に被り、廊下の先を行く。


「…あの軍人みたいな(スン)刑務官の下の名前、夏莫尼看守部長! どうか俺にご教示を」
蓉麗(ロンリィ)だよ。可愛らしい名前だよな。ただ、絶対に呼ぶな。あんな見た目をしているが冗談が通じない。親父ギャグに何度氷のような目を向けられたか。そして私が言ったとは絶対に言うな? 杨 家乐(ジャラ)、きみの股間が今度こそ弾け飛ぶぞ」

「けっ、お高く止まっちゃって」


 ふーん蓉麗ねー、と肘をついて頭を置き、麦米を口に注ぎ込む。全く豚の餌だ、これを毎日胃に流し込んでるお前ら何食って生きてきたの。まるで家畜以下だな。しばらく息を止めて咀嚼して、嚥下してから豚のような肉体をした夏莫尼看守部長に目を向ける。


「夏莫尼看守部長、彼女の経歴を。自分は曲がりなりにも看守長の甥です、女ってだけで舐められるこのご時世、彼女が本当にこの職に相応しいか見極めないと」

「不相応だった場合は?」

「俺の嫁行きです」

「はっは! そりゃいい! 杨 家乐、おまえは生まれた家系に恵まれただけの仕事が出来ない肩書き改竄(かいざん)エリートだが実に面白い、ユーモアがある」

「…(殺すぞ)」

「本当だよ、この死んだような顔で働く刑務所内の職員で唯一光を担ってる…今はまだ、な。でもその心配は無用だ。彼女は君みたいな国立大出の学歴なんて持っていない。高卒だよ」

「何?」

「高校卒業後独学で勉強し、刑務官採用試験合格後、その実力だけでのし上がった。まぁ実力重視の世界だからな、この業界というのは。肩書きや学歴、過去に何があったかなんてものは全くもって意味を成さない。それが彼女がこの職に惹かれた一番の理由だろう。実際彼女はまだ28だ。早生まれだからね。その若さで、熱意を持って。それでも十年の刑務官の仕事から身を引こうとしているのは、きっと親父さんのことが絡んでいるんだろう」

「…ん、え、まって。孙さん辞めちゃうんすか? 親父さんって?」


 涼しい顔で食後の珈琲に口をつけた夏莫尼看守部長を食い入るように覗き込めば、「しまった」と言わんばかりに表情が曇った。そしてそのまま私はそろそろ、と立ちあがる夏莫尼看守部長に「俺、看守長の甥」とニヤつけば、大きな肉塊が諦めたように腰を下ろした。


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