【短編】桜咲く、恋歌にのせて

“頑固”だけじゃなくて“ニブチン”って。


「喧嘩ふっかけてる?」


としか思えない。

勢い良く詰め寄ろうとしたら、先にヒデが一歩近づいて見下ろしてきた。

その迫力に威圧されそうになる。


「結依ってさ、たまに忘れてない?」

「何をよ?」

「俺が結依を好きってこと」


淡々と喋りながらジリジリと近づく。

視線が痛い……。

私、ヒデのその何もかも見透かすような真っすぐな熱い視線に弱い。

一度捉われると身動きがとれなくなる。


辺りに風が吹く――。

ザワザワと音を立てる木々に共鳴する胸の音。

忘れてない、よ。

ただ、ヒデが私のことを好きって言う今でさえ、ヒデの気持ちが本当に私に向いているのか不安になるだけ。

どれだけヒデの想いを感じても、どれだけヒデの想いを聞いても、未だ不安になる。

ヒデのこと想えば想うほど、伝えたいって思う気持ちとは裏腹に踏み留まってしまう。

恋の儚さを知っているから。

桜は儚く散ってもまた咲き乱れると言うのに。

私は自分勝手な一年前と何ら変わっていない。


そっか。

だから、未だにヒデに気持ちを伝えられないんだ。

今さら何て言っていいか分からない。

それに心がまだ弱いから。


恋する資格。

想いを伝える勇気。

持てずにいるんだ……。



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