【短編】桜咲く、恋歌にのせて
服の裾を両手で掴むと、ヒデの体が後ろに傾き立ち止まった。
見上げた先には、振り向き様に驚いた顔をして私を見下ろす姿。
何か言わなくちゃ。
そう思うのにうまく言葉が出てこない。
ヒデが離れていかないように両手でギュッと握り締める。
視線が絡み合う。
それは、あの日感じた熱い視線。
好き……ヒデが好き。
「あのっ」
「結依……」
ようやく絞りだした声がヒデの声と重なった。
また口籠もってしまった私に、先にヒデが言葉を続けた。
「だから、結依は隙ありすぎなんだって」
体を動かしてヒデが正面を向く。
裾を掴んでいた私の手にヒデの手が重なる。
撫でるように優しく指先を這わせ、そっと絡ませてきた。
ドキドキする……。
心臓が壊れそうなほど、激しく鳴り響く。
どうして?
こんなに好きなんだろう。
ヒデに見つめられて、
ヒデに触れられて、
体中がヒデを求める。
絡み合った手をきつく握り締め、私はヒデの胸にゆっくり寄り掛かった。
離れたくない。
ヒデが好きって伝えないと……。