【短編】桜咲く、恋歌にのせて
バクバクバクバク……。
ヒデの胸から伝わったのは、私の胸より早い鼓動。
信じられないぐらいのスピードに驚いて、私は慌てて顔を上げてヒデを覗き込んだ。
不意打ちだったのか、焦って目を泳がせるヒデ。
月明かりに照らされた顔が少し、ほんのり桜色に色づいている。
「あーっ、もう! 降参、俺の負け」
ヒデが視界からあっという間に消えたかと思うと、手を繋いだままその場にしゃがみ込んでいた。
まったく意味が分からなくて唖然とする。
負け、って?
暫くの間、私はしゃがみ込んでうな垂れる姿を眺めるしかできなかった。
こんなヒデも初めてかも。
いつもどこか余裕があって、掴みどころがないのに。
今のヒデはまるで子どもみたいで、余裕がなくて何だか可愛い。
「ヒデ?」
優しく声をかけると、ビクンと反応したヒデはゆっくりと顔を上げた。
「……く……だって」
「え?」
「だから、その顔もその声も反則なんだって」
「え……っ、きゃ!!」