【短編】桜咲く、恋歌にのせて

「ヒデッ!!」


勢い良く振り向いた拍子に、私の髪が思いっきりヒデの顔にぶつかった。

手が緩んで痛がるヒデの頬に手を伸ばして優しくさすると、


「ヒデ、ごめん! 大丈……」


頬に当てたその手を握られて、瞬きする暇もなくキスをされていた。


あの日のキスとは違う。

息さえできないほどの
長いキス――。

柔らかな唇の感触に体中の神経がそこに集中しそうなほど、温かくて気持ち良くて愛しかった。


無意識に伸ばした手がヒデの背中に回る。

指先から感じるヒデに、例えようのない感情が沸き上がる。


「結依は俺のこと好き、だろ?」


少し離れた唇から漏れた言葉。

相変わらずの自意識過剰な発言。

だけど……。


「好き、ヒデのことが……好き」


私の言葉を聞き終わると同時にヒデはきつく抱き締めて、再び唇を重ねて何度も何度もキスを落としてきた。
 

ようやく言葉にした想い。

ヒデを意識し始めて一年。

こんなにも幸せな気持ちになれるのだったら、

こんなにも愛しい気持ちを抱いていたのなら、

もっと早くヒデに伝えていればよかった。


それぐらい今が、満ち足りた時間だった。



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