【短編】桜咲く、恋歌にのせて
顔が熱い。
首もとが熱い。
体中が熱を帯びてくる。
心臓はバクバクと騒がしくなるし、それなのに口は動かない。
「ね、言ったでしょ」
自信有りげに見下ろすヒデ。
してやられた……。
じゃなくて。
「ヒデが手が早いだけでしょ」
「まだ分からない? 結依って一直線で一途なんだけど、他は眼中にないからいろんなこと気付かないんだよ。
だから、一年前だってキスされたわけだし?」
何だか言っていることはごもっともで。
やっぱり返す言葉がなくなって首もとを押さえる。
そんな私を愛しそうに見つめながら、ため息をつくヒデ。
「そういうところもひっくるめて、結依のこと好きだよ」
そう言うとおでこをコツンとくっつけてきた。
間近に迫るヒデの顔に胸のドキドキが治まらない。
「結依にその気がなくても、離れてしまうと他の男につけいられるんじゃってやっぱり不安になって……もう、待てなかった」
真剣に話し出したヒデを、まつげが触れそうなぐらい近い距離で一点に見つめる。
始まりはヒデの突然のキスからだった。
熱い想いを伝えられたのは桜咲き乱れる季節、ひっそりと咲く桜の木の下で。
そして今――。
季節は巡り、桜が散って青々とした葉をつける桜の木の下で、
「順序違うけど……。結依、俺と付き合ってくれる?」
いつの間にか狂おしいほど愛しく感じているヒデから、
涙が出そうなほど心満ち足りる言葉を言われた。