【短編】桜咲く、恋歌にのせて

「うん……」


ただそう言うのが精一杯。

それだけ胸がいっぱいだった。

こうして言葉にして伝えてもらえると、こんなにも嬉しいものなんだね。

それなら、私も伝えないといけない。


「ねえ、ヒデ?」

「ん?」

「私、ヒデのこと大好きだよ」


木々のざわめく音にかき消されるキスの音。

抱き合ったままヒデは何度も唇を侵していく。


初めて自分から伝えた気持ち。

言葉にすると案外簡単なもので、今まで肩に乗っていたものが落ちていく気がした。

不安が薄れていく。

唇から伝わるヒデの気持ちに安堵を覚える。

恋に臆病になっていた自分がバカらしく思えてくる。

お互いを確認するように何度もキスをした後、二人で目を合わせて微笑んだ。


そのままベンチに並んで座り、ヒデの膝の上で手を重ねた。

ただこうしているだけでもいい。

そんな感情が不思議で、人を好きになることが不思議で仕方なかった。


「何でこんなに好きになったのかな」

「さぁ? 俺も何でこんなめんどくさい女好きになったのか不思議だし」

「ちょっとヒデ、ひどくない?」


いつも通りの会話。

だけどそれさえ愛しい。

そんなヒデに顔を向けると、その後ろの桜の木が目に入った。


「あーっ!!」


お、思い出した。

私が一番気になっていたこと。



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