【短編】桜咲く、恋歌にのせて

「今何時だと思ってるのよ」

「ん〜、もうすぐ日付が変わるぐらい?」


はぁ……。
出るのはため息ばかり。

これがヒデ。

そうだった、こういうやつだった。


あれこれ考えたって状況は変わらないだろうし、とりあえず一緒にのんびりお酒を飲むことにした。

特に話をするわけでもなく、お酒を飲みながらつまみをどんどん食べていくヒデ。


卒業してから約二ヶ月――。

久しぶりに会ったヒデは相変わらずなんだけど。

大学時代は明るい茶髪だった髪も、今ではすっかり教育実習中の時のように真っ黒で、少し落ち着いた雰囲気になっていた。


「ヒデが中学校の先生だもんね」

「ハハッ、適職でしょ?」

「未だに信じられないし、心配だなぁ……」


どんどん空になっていく缶をゴミ袋に捨てていく。

推定十本ほどあったビールはあっという間になくなって、仕方なくキッチンへと向かった。

ビールをケースから取り出して部屋に戻ろうとしたら、


「アハハハハハハ! さすが結依、ケースだし! しかも二ケースもあるし!」

「何よ、飲みたくないの?」


ヒデが豪快に笑うものだから、意地悪くケースにビールを戻すフリをしてみる。

すると、私の手首はヒデに掴まれて。


「……っ!!」


体が反応する。

思い出す、あの時を。

高鳴る胸の鼓動。


「結依ごめん、ビール飲みたい」


謝りつつも口角を上げて私を見つめるヒデに、確信犯だと悟った。



< 3 / 27 >

この作品をシェア

pagetop