【短編】桜咲く、恋歌にのせて
「今何時だと思ってるのよ」
「ん〜、もうすぐ日付が変わるぐらい?」
はぁ……。
出るのはため息ばかり。
これがヒデ。
そうだった、こういうやつだった。
あれこれ考えたって状況は変わらないだろうし、とりあえず一緒にのんびりお酒を飲むことにした。
特に話をするわけでもなく、お酒を飲みながらつまみをどんどん食べていくヒデ。
卒業してから約二ヶ月――。
久しぶりに会ったヒデは相変わらずなんだけど。
大学時代は明るい茶髪だった髪も、今ではすっかり教育実習中の時のように真っ黒で、少し落ち着いた雰囲気になっていた。
「ヒデが中学校の先生だもんね」
「ハハッ、適職でしょ?」
「未だに信じられないし、心配だなぁ……」
どんどん空になっていく缶をゴミ袋に捨てていく。
推定十本ほどあったビールはあっという間になくなって、仕方なくキッチンへと向かった。
ビールをケースから取り出して部屋に戻ろうとしたら、
「アハハハハハハ! さすが結依、ケースだし! しかも二ケースもあるし!」
「何よ、飲みたくないの?」
ヒデが豪快に笑うものだから、意地悪くケースにビールを戻すフリをしてみる。
すると、私の手首はヒデに掴まれて。
「……っ!!」
体が反応する。
思い出す、あの時を。
高鳴る胸の鼓動。
「結依ごめん、ビール飲みたい」
謝りつつも口角を上げて私を見つめるヒデに、確信犯だと悟った。