【短編】桜咲く、恋歌にのせて

「好きだよ」

「ブッ!! ……ゴホゲホッ」

「あ〜あ、何してんの」


素早く手渡されたティッシュで、吹きこぼしたビールを急いで拭いていく。

それは、予想外。

その言葉はあれ以来聞いていなかったのに。


「ゴホゴホッ、ゴホッ……」


気管に入ってしまってビールのせいで咳が止まらない。

もっと言えばヒデのせいだ。

そんな私を心配してか近づいてくるヒデ。


「大丈夫?」


そして、何のためらいもなく背中をさすってきた。

こっちはヒデが触れるだけで、心臓が飛び出そうなほどドキドキするっていうのに。

温かく、優しく。

背中をさすりながら顔を覗き込んでくる。


「ゴホゴホッ……」


ち、近い。

声を出さなくても吐息がかかるし、少しでも動けば肌が触れそうなほど。

見つめられる視線が痛いのに、逸らすことができない。


「キス……」


ヒデが呟く。

愛しそうに見つめる視線に捉われる。


私は、時が止まったかのように固まった。



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