【短編】桜咲く、恋歌にのせて

「期待した?」


口元を緩めて囁くヒデ。


「まさか」


フッと笑ってヒデから離れる。

あくまで平静を装って冷静に。

だけど本当は、心中穏やかでいられない。

私やっぱり遊ばれているのかな。

そう思ってしまう。

クスクスと笑うヒデを置いてキッチンへ行き、冷蔵庫からお茶を取り出して口に流し込む。

ってか、ヒデは本当に何しに来たんだろう。

まさか、本当に会いに来ただけ?


キスも一度きり。

好きと言われたのも一年前。

久しぶりに面と向かって言われて……。

今もなお胸の鼓動が治まらない私は、やっぱりヒデのことが好きなんだと改めて認識した。


「ふぅ……」


部屋でビールを飲んでいるヒデを横目にトイレへと行き、その後こっそり外に出た。


夜風が身に染みる。

そよぐ木々の音を聞きながら思い出す。


前彼と別れて一年。

ヒデのことを意識し始めて一年。


『結依は俺のこと好きになるよ』


ヒデが私に言った言葉。

好きになったよ……。

いつからか心の中はヒデでいっぱい。

だけど今更、何て伝えていいのか分からなくなっていた。



< 6 / 27 >

この作品をシェア

pagetop