【短編】桜咲く、恋歌にのせて
「期待した?」
口元を緩めて囁くヒデ。
「まさか」
フッと笑ってヒデから離れる。
あくまで平静を装って冷静に。
だけど本当は、心中穏やかでいられない。
私やっぱり遊ばれているのかな。
そう思ってしまう。
クスクスと笑うヒデを置いてキッチンへ行き、冷蔵庫からお茶を取り出して口に流し込む。
ってか、ヒデは本当に何しに来たんだろう。
まさか、本当に会いに来ただけ?
キスも一度きり。
好きと言われたのも一年前。
久しぶりに面と向かって言われて……。
今もなお胸の鼓動が治まらない私は、やっぱりヒデのことが好きなんだと改めて認識した。
「ふぅ……」
部屋でビールを飲んでいるヒデを横目にトイレへと行き、その後こっそり外に出た。
夜風が身に染みる。
そよぐ木々の音を聞きながら思い出す。
前彼と別れて一年。
ヒデのことを意識し始めて一年。
『結依は俺のこと好きになるよ』
ヒデが私に言った言葉。
好きになったよ……。
いつからか心の中はヒデでいっぱい。
だけど今更、何て伝えていいのか分からなくなっていた。