サヨナラ、セカイ。
1-1
病院はキライだった。ただの風邪でも自分が重病人になった気がして滅入るから。それでも歯医者さんだけは。痛くなったらどうしようもない。

ずっと歯が染みるなぁって思ってて。知覚過敏かなにかだと歯みがき粉を替えてみたり、自己診断で放置したのが悪かった。

夜中にズキンズキンと歯茎が痛みだして眠れない。翌朝になっておさまったものの、これはどう足掻いても『虫歯』だ。

勤め先の不動産屋と駅とのあいだに、新しくデンタルクリニックが開業してたのを思い出す。九時すぎに出社してすぐに電話。事情を話したら11時には診てもらえることになった。・・・ほっとした。

「社長~、歯医者さん行ってきますね~」

「ハイハイお大事にー」

御年71歳。白髪がふさふさの、当たりの柔らかいおじいちゃん社長。

50代の娘さん、郁子(いくこ)さんとご主人の(ただし)さん、そしてわたし。4人だけの小さな町の不動産屋さん。毎日のんびりで、ほとんどのコトが融通が利く。とっても素敵な職場だ。
< 1 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop