サヨナラ、セカイ。
それでも冷静に『通院中』っていう文字が頭の隅をよぎった。変なこじらせ方はしたくない。リスクを天秤にかけて受話器を取り応答した。

「・・・はい」

モニター越しの先生がスピーカーに少し顔を寄せる。

『こんばんは。ごめん沙喜、いきなりで』

「お待ちください」

廊下の灯りを点け遠慮がちにドアを開く。
先生の顔はあまり見ないで、邪険にならないよう。

「入ってください。・・・狭いですけど」

「ありがとう」

来客用の・・・というかユウスケ用のスリッパを並べ、室内へと促した。

「すみません、適当にベッドに座っててください。珈琲でいいですか?」

先生が袖を抜いたダウンにハンガーを通し、ピクチャーレールに引っかけてキッチンに向かおうとして。背中から抱きすくめられ動けなくなった。

「せ・・・」

「やっと逢えた・・・。ずっと会いたかった、沙喜・・・」
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